2010年7月3日土曜日

法律について考える

敷金返還、退去精算金の返還などに関連する法律について、少し考えてみましょう。

法律を味方につけるために。

※内容的には2003年当時のままです。その後追記などは加えておりませんんで、現在と異なる状況も考えられます。参考程度にどうぞ。

民法第606条1項、および第616条、598条について



一般的に、大家が請求の根拠としている、宅建業界の商慣習に基づく計算方法は、改装工事費用、通常の使用による損耗分の修繕費用まで賃借人の負担としており、不当な計算方法であると考える。

民法第606条の1で、修繕費用は貸主の負担とされている。通常の使用にて損耗、経年劣化したものがこれに当たる。

一方、原状回復に関しては、民法第616条、第698条により、借主に回復義務があるとされている。

しかし、借りた当時の状態に復する事が原状回復ではないことは明確であり、通常使用により経年劣化した部分の修繕は原状回復には含まれないとする考え方が一般的である。

つまり、経年劣化、損耗部分の修繕は民法第616条、第598条に定める原状回復には含まれないと考える。

退去後に賃貸物件を金額を掛けたやり方で修繕するのか、そうでないかも含めて、どのように修繕しようとも貸主の自由である。

貸主は、次の借主が入居しやすいように修繕するものであり、この修繕こそ民法第606条の1の

賃貸人は賃貸物の使用及び収益に必要なる修繕を為す義務を負ふ

という条文にあてはまるといえる。つまり、全額貸主の負担であると考えられる。

 


消費者契約法第4条1項1号について



一般的に、賃貸住宅の入居者(借主)は、退去時の精算金等について、納得した上で積極的に支払ったものではないと考える。

なるべく支払いたくないのは明らかであり、支払う必要があるとの認識の元に、仕方なく支払う、というのが本音だろうと思われる。

一方、貸し主である大家側とすれば、返還に応じられない理由として、退去時精算金等の精算方法や金額に対する異議の申し立て、質問等がないまま支払いが行われたこと、また、振込み終了時点で契約が終了しているため、以降の異議申し立ては無効であるとする考え方を示すことが多いようである。

入居者が異議申し立て、質問等をせずに請求金額を支払ったことが、退去時の精算方法や請求金額に同意した上で相手方に支払ったと解釈されたとしても、原状回復の範囲を超えた改装費用等、相手方から請求のあった退去時精算金等は契約上支払う義務がないことを充分承知した上での合意であるというなら別であるが、あたかも入居者に支払い義務があるかのような退去時前後における話の流れ、その後の退去時精算金等の請求により支払義務があるものと考え合意したとすれば、その合意は錯誤により無効あるいは詐欺により取り消せることになると考える。

この場合の契約とは、入居時に締結した住宅賃貸借契約ではなく、退去時における精算方法や負担する金額に関して合意した上で、入居者に支払い義務のある金額を相手方に支払うという退去時精算に関する契約を指すと考える。

以上により、消費者契約法第4条1項1号の「重要事項について事実と異なることを告げること。当該告げられた内容が事実であるとの誤認」により、入居者は本来負担する義務がない改修費用等を貸し主である大家に支払わなくてはならないという誤認があったとして、

同法第7条により、「誤認」したことを知ったときから6ヶ月間、合意した日から5年間は取り消して返還を求めることができると考える。

退去時精算に関する契約が締結されたとするのは、入居者が退去した日であると考え、その日より5年以内に返還請求を申し出れば、上記の返還を求めることが出来る期限に関する要件を満たしていると考える。

貸し主との賃貸借契約が既に終了していること、また、異議申し立て、質問等をせずに一度支払いに応じたことは、退去時精算金等の返還を求める上で、法的に何ら問題のないことであると考える。

以上により、一旦貸し主の請求通りに支払ってしまったとしても、返還を求めるのに充分な正当性があると考えられる。

 


国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の位置付け



「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」とは、民間賃貸住宅における賃貸借契約は、あくまでもお互い(貸す側と借りる側)の合意に基づいて行われるものであり、いわゆる契約自由の原則により、その内容について行政が規制することは適当ではないが、原状回復に係るトラブルが頻発していることから、賃貸住宅標準契約書の考え方、裁判例及び取引の実務等を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方について、平成9年当時において妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとして平成10年3月にとりまとめたものである。

ガイドラインは、賃料が市場家賃程度の民間賃貸住宅を想定しており、賃貸借契約締結時において参考にするべきものである。現在、既に賃貸借契約が締結されている場合は、一応、現在の契約書が有効なものと考えられ、契約内容に沿った取扱いが原則であるが、契約書の条文が曖昧な場合や、契約締結時に何らかの問題があるような場合の協議の参考とするものである。

賃貸借契約時において、契約書に原状回復についての条項がない場合などは、ガイドラインを参考にすることについては充分な正当性があると考える。

ガイドラインにおいては、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等を復旧すること」と定義し、その費用は賃借人負担としており、いわゆる自然損耗、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃貸人負担としている。そして、原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に復することではないことを明確に定義している。

前述の「通常の使用」については、「通常の使用」の一般的定義は困難であるため、個別具体の事例を具体的に区分して賃貸人と賃借人の負担の考え方を明確にしている。
(国土交通省 住宅局 「ガイドライン」による、摩耗、損耗の事例区分(表)参照)


:賃借人が通常の住まい方、使い方をしいても、発生すると考えられるもの

:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの

(明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの)

A(+B):基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの

A(+G):基本的にはAであるが、建物価値を増大させる要素が含まれているもの


このうち、B及びA(+B)については賃借人に原状回復義務があるとしている。

経過年数の考慮については、前記BやA(+B)の場合であっても、自然損耗や通常損耗が含まれており、賃借人はその分を賃料として支払っており、賃借人が修繕費用の全てを負担することとなると、契約当事者間の公平を欠くなどの問題があるため、賃借人の負担については、建物や設備の経過年数を考慮し、年数が多いほど賃借人の負担割合を減少させるのが適当であるとしている。

この負担割合の減少については、入居後概ね6年で残存価値が10%となるような直線または曲線を想定し、負担割合を算出するとしている。

入居期間が6年を超えている場合には、上記負担割合は最大でも10%程度とするのが妥当であると考える。また、そのような主張にも充分な正当性があるものと考えられる。





※この記事は、2003年7月にまとめたものです。あくまで当時の記録としてご覧ください。


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